東京高等裁判所 昭和49年(う)2569号 判決 1975年1月27日
被告人 滝澤弘
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人河本仁之が提出した控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これを引用する。
一、控訴趣意第一(事実誤認の主張)について。
所論は、要するに、原判決は、被告人が原判示のコインロツカー内にけん銃一挺及びけん銃用実包二六発を保管して所持したものと認定判示しているが、被告人は、佐伯紋四郎が沖和静に右けん銃及び実包を譲り渡した際、右のけん銃及び実包を全く見ることもなく、単に佐伯から預つたコインロツカーの鍵を短時間内に沖に渡したに過ぎないのであつて、けん銃及び実包を自己の実力支配下において所持しているという認識もその事実もないのであるから、原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認がある、というのである。
そこで、原判決挙示の諸証拠を総合すると、被告人は、昭和四八年末ころ知人の沖和静からけん銃が欲しいので世話してくれと頼まれていたところ、昭和四九年二月二二日ころ、同じく知人の佐伯紋四郎よりけん銃を持つているから売つてくれと頼まれたので、これを沖に通じ、その結果佐伯が所持していた原判示のけん銃及び実包(以下本件けん銃等という。)を被告人を介して沖に対し代金三五万円で譲り渡すことの取決めができ、原判示の日である同月二五日ころ、被告人と沖が本件けん銃等を代金と引換に授受することになり、被告人は、佐伯に対し本件けん銃等を持参するよう告げたところ、同人は同日正午ころ、東京都新宿区新宿一丁目二六番一二号御苑マンシヨン四〇八号の被告人の事務所に来て、本件けん銃等は原判示の新宿ステーシヨンビル地下一階の第一コインロツカー内に入れてあるとして、右ロツカーの鍵を被告人に渡し、右の鍵と引換に本件けん銃等の代金を受け取つて欲しいと頼んだので、被告人はこれを承諾し、本件けん銃等を直接現認しないまま、同日午後三時前後ころ、同区新宿一丁目二六番八号所在の喫茶店「花園」において、右の鍵を沖に渡し、これと引換に本件けん銃等の代金三五万円を同人から受け取り、同日午後五時ころ、前記被告人の事務所において、右現金を佐伯に渡したものであることが認められる。しかして、銃砲刀剣類所持等取締法三条の銃砲等の所持及び火薬類取締法二一条の火薬類の所持とは、銃砲等又は火薬類を自己の事実上支配し得る状態に置くことをいい、必ずしもこれを把持或いは現認している必要はなく、その存在を認識してこれを管理し得る状態にあれば足りるものであるところ、前記のとおり、被告人は、原判示のコインロツカー内に本件けん銃等を入れたことを佐伯から知らされてその存在を認識し、その管理の手段でありかつ本件けん銃等の譲渡代金三五万円の引換の対象である右コインロツカーの鍵を同人から受け取つて本件けん銃等を管理し得る状態におき、その所持を開始し、前記のとおり、沖に対し代金三五万円と引換に右の鍵を交付するまで約三時間本件けん銃等の所持を継続したものというべきで、原判決に所論のような事実の誤認があるといえない。論旨は理由がない。
二、控訴趣意第二(量刑不当の主張)について。
所論は、被告人を懲役八月に処した原判決の量刑は重過ぎて不当である、というのである。
そこで、原審記録を調査し、当審における事実取調の結果を併せて検討するに、被告人の本件犯行は、第三者がけん銃一挺及びけん銃用実包二六発を他に譲渡するに際し、その仲介に入り、約三時間位右第三者のためにコインロツカー内にこれらを保管して所持したというもので、自己のために所持したものではないが、所論のように偶発的な犯行ではなく、やはり暴力団の幹部であるという被告人の境遇に関わりのある犯行で、これらを譲り受けた者により威迫の手段として現実に数発の弾丸が発射されて、危害発生の具体的な危険も生じており、これらの犯情と被告人の前科歴等を併せ考えると、被告人の責任を軽視することはできず、所論指摘のような被告人の反省の態度、職業、家庭の状況等被告人のため有利に斟酌すべき事情を考慮しても、被告人に対し罰金刑をもつて処断すべきものとはいえず、懲役八月に処した原判決の量刑はやむを得ないものというべく、これが重過ぎて不当であるとはいえない。論旨は理由がない。
よつて、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決をする。
(裁判官 龍岡資久 片岡聴 福嶋登)